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東京地方裁判所 昭和54年(刑わ)1542号 判決 1979年8月10日

主文

被告人を懲役一年に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五一年一二月ころから帝国インキ製造株式会社三鷹工場で工員として勤務していた者であるが、同社社長澤登千明が同工場を巡視する際、しばしば同社長から注意を受け、その都度上司からも叱責されたことから、同社長を恨み、同人に報復しようと考え、

第一  昭和五三年一〇月初めころから同五四年四月一九日ころまでの間、ほぼ連日にわたり、深夜から早朝にかけて、肩書自宅又は付近の公衆電話から、東京都豊島区要町二丁目一二番七号澤登千明方(電話番号九五七局七、八五七番)に電話をかけて同人方の電話の呼出音を鳴らし、同人の妻ゆき(当六六年)らが受話器を取り上げて応待した場合には、無言で電話を切り、応待しない場合には、長時間にわたり電話をかけ放しにして同人方の電話の呼出音を鳴らし続け、よって、右ゆきに著しく精神的不安感を与え、かつ不眠状態に陥れるなどして同女の心身を極度に疲労させた結果、同女に対し加療約三週間を要する精神衰弱症の傷害を負わせ

第二  昭和五三年一一月一三日から同五四年一月五日までの間、前後三回にわたり、右同社の取引先である東京都葛飾区青戸七丁目三二番一号東洋インキ製造株式会社青戸工場に対し、「帝国インキとの取引をやめなければ東洋インキの青戸工場を爆破する」旨記載した脅迫文書を郵送して同工場長柏岡暁らにこれらを閲読させ、もって、同人らに対し同工場の財産及び右柏岡らの生命・身体等に危害を加うべき旨を告知して脅迫し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

罰条

判示第一の事実につき

刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号(懲役刑選択)

判示第二の事実につき

刑法二二二条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号(懲役刑選択)

併合罪の処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四七条但書(重い判示第一の罪の刑に加重)

執行猶予 刑法二五条一項(本件犯行は、その態様において極めて悪質であり、また一般予防の見地からみても、その刑責は軽くないが、被告人には前科、前歴が全くなく、本件についても、被告人は、無口で内攻的性格であるため、判示のとおり仕事の上で叱責されたことを悩んで犯行に及んだものの、本来は真面目な性格であって、現在改悛の情が顕著であること、また各被害者も被告人を宥恕していること等の情状をしんしゃくして、執行猶予を付すこととした)

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田央)

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